著作のデジタル化「自炊」は禁止!では社内資料のデジタル化は?

著作のデジタル化「自炊」とは

「自炊」と聞くと、一般には自宅での料理を指すものですが、今回はビジネス業界用語の「自炊」について取り上げます。

自炊とは、蔵書をスキャナー等を用いて自分でデジタルデータ化(電子化)する行為のことです。最近は、自分で作業をしなくても、書籍のデータ化を代行してくれる業者も増えてきました。「スキャン代行」「自炊代行」などと呼ばれます。

ここで以下のような疑問が生じたはずです。
「他人の著作物を自炊してもいいのだろうか?」

今回は、この自炊がどの程度まで可能なのか、法律で罰せられる範囲はどこまでなのかについて詳しく解説していきます。

≪この記事は以下の方におすすめです≫
  • 紙媒体の情報をデータ化したい
  • 企業における「自炊」の是非について知りたい
  • 個人のデータをデジタル化する是非について知りたい
  • 自炊を代行するサービスについて知りたい

著作物の自炊が許される範囲

著作物は作者に所有権があります。もし、これをデータ化して不特定多数の人に流してしまっては、その書物を購入せずとも気軽に見れてしまうことになります。これでは作者が不当に損害を被ってしまうので、「著作権法」で以下のように決められています。

(私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

※次に掲げる場合とは以下のようなことを指します

  • 公共の場で使用されている自動複製機器を使用して自炊
  • 技術的保護手段を回避して自炊
  • インターネット上に不正に公開されているものをコピーして自炊

つまり、自炊は個人的又は家庭内で利用するならOKということです。自宅にある書籍を電子書籍にしたり、PDF化したりすることは問題ありません。しかし、この法的解釈から考えると、データ化したものを友人に貸したりあげたりすることはグレーということになります。

その行為自体が法に触れる可能性もありますし、データを貸した友人に対する説明が不足していることで、何か著作権の大きな問題に拡大する恐れもあります。このように考えると自炊は捉えようによっては危険な行為になりかねません。自炊する場合は必ず自分もしくは理解のある身内に上記のことを説明した上で著作物のデータを使用しましょう。

ここで、企業における自炊はどうなのかという疑問にお答えします。答えは「小規模であろうが会社など団体内に自炊したデータを配布することは禁止」です。前述の説明の通り、自炊の範囲は身内に限られるので集団の時点で法に触れてしまいます。

また、会社内で使用すれば私的利用ではなく営利目的と判断されてしまいます。

では、よくある事例とともに法に触れるのかを解説していきます。

ケースごとの著作権

<ケースA>
『ある男性の所属する部署で勉強会として、資料が配られました。男性がその資料を見てみると書物の特定のページが印刷されていました。これでは勉強会に参加する不特定多数の社員に拡散されるため、著作権を侵害してしまうのではないかと疑問を持ちました』

このケースは会社における会議でありえそうなシチュエーションです。

会議や勉強会で参加者全員分の本を購入するのは、会社として難しいかもしれませんが、だからと言って上記の行為は違法です。ばれなければOKという訳ではありません。この場合も著作権法で許される私的利用ではなく営利目的に該当してしまうので、万が一誰かに訴えられたら勝訴は難しくなります。

<ケースB>
『ある女性の所属する会社からメールで資料が配られました。それを見てみると、本の資料がPDF化されています。さらに、メールのあて先は多数の社員で、女性は著作権侵害に当たるのではないかと疑問を持ちました。』

この場合は、以下の著作権法の自動公衆送信違反(2条1項9号4)に当たります。

第2条 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うもの(放送または有線放送に該当するものを除く) をいう。

つまり、社内と言えど他人に帰属する著作物を許可なく不特定多数に拡散(現実でもインターネット上でも)することは禁止されているということです。では、次にグレーに近い例を見てみましょう。

<ケースC>
『 ある男性が個人的に購入した書籍を自炊し、家庭内で使用していました。その自炊した書籍の一部を父親が所属している会社(前述の男性とは別の会社)に持って行き、コピーして別の社員に配布してしまいました。』

これに関しても、完全にクロです。自炊した書籍の利用は家庭内でしたら問題ありませんが、それを会社にもっていき複製してしまった場合は「小規模であろうが会社など団体内に自炊したデータを配布することは禁止」に該当しています。このようなことを避けるために、事前に家族に説明しておきましょう。

ここまで自炊の概要と適応範囲について説明してきましたが、分かりやすい裁判事例がありましたので次に紹介します。

自炊について裁判の事例

2016年、作家の東野圭吾さんら7人が東京都内の自炊(デジタル化)代行業者に事業の禁止などを求めた裁判で、最高裁第2小法廷(小貫芳信裁判長)は3月16日、代行業者の上告を受理しない決定を出しました。これにより高裁の判決が確定し、代行業社は事業の存続が不可能になりました。

判決によると、自炊代行業者は、顧客から送られてきた本を裁断し、スキャナーで読み取り、電子データに変換して納品するサービスを有料で提供していたようです。著作権者の許可は得ていなかったため、作家の東野圭吾さんや浅田次郎さんらが著作権が侵害される恐れがあるとして、自炊代行の禁止を求めました。これを受け、東京地裁と知財高裁は作家らの主張を認め、最終的に損害賠償と自炊代行の禁止を業者に命令するという結末になりました。

裁判のポイント

今回の裁判は、自炊代行業者が悪いのか、自炊代行を申請した人が悪いのか……という焦点で関係者の間で注目されていました。

これに関しては、二つの考え方があります。
(1)自炊行為の責任は顧客にあり、これを申請しているのだから罰せられるべきは顧客の方である
(2)自炊代行業者は顧客からの注文をもらっているが、自炊行為自体は代行業者がしているのであって、責任は代行業者にある

裁判の詳細は不明ですが、高裁における結果(自炊代行業者の業務停止命令)が上告され、最高裁が不受理決定を下したことで考え方としては、(2)が支持される形となりました。つまり、申し込んだ顧客ではなく自炊代行サービスが法律に触れるということです。

この結果から、著作物の自炊代行サービスのビジネスモデルは存続不可能となり、以降減っていくことになります。しかし、今回の記事では自炊代行サービスの紹介も載せています。そちらの代行サービスは社内資料など著作権法に触れないものであれば自炊代行が可能ということなので、安心して利用してください。

社内資料ならOK!

ここまで、企業における自炊は禁止という内容でしたが、これは他人に著作権が帰属するものという条件付きです。

当然、社内資料の著作権は会社やその作成者にあります。この場合の自炊はOKです。

古い資料(研究論文や社内報など)は、自社で作った貴重なものであっても、デジタルデータが残っていないことがあります。それを自炊し、会議やプレゼンテーションで使いやすいようデジタル化することが可能です。しかし、何度も説明している通り、他人の制作物が少しでも関わってくる場合は注意しましょう。

作者に許可を得ていればOK!

他人の著作物すべてが自炊禁止という訳ではありません。作品を制作し、著作権が帰属する作者に許可を得ていれば自炊しても罰せられることはないでしょう。しかし、この作者との関係次第では「許可した覚えはない」と訴えられてしまう可能性もゼロではありません。許可を得て自炊する場合は、万が一のために書類にサインしてもらうようにしましょう。

自炊を頼める代行業者の立場

書籍の裁断やスキャンを代行する「自炊代行サービス」が今も存在していますが、これらは社内資料など 著作物が申請者に帰属するものを受け入れています。しかし、どの程度まで受け入れているのか分からないので、実際に筆者が自炊代行業者に確認しました。その結果、業者の立場をまとめると以下のようになりました。
◆自炊代行業者は書籍のスキャンも受け付けているが、作者に許可を得ていないものは断っている
◆自炊代行業者は作者の許可をもらっていると言われればスキャンの仕事ができる。また、書類的な手続きは必要ない

※この内容はある特定の自炊代行業者に質問したものであり、自炊代行業者全般に共通している訳ではありません

これらのことをまとめると、業者はある程度顧客を信頼して代行サービスを行っているようです。先の裁判事例のような著作物のスキャンも行っていないからこそ、堂々と代行サービスとして運営しているようでした。

この記事を見てくださる方は自炊をしようか考えている企業様が多いと思いますので、次に自炊業者も紹介していきます。

自炊代行業者の紹介

そのままスキャン
こちらでは「書籍や資料を裁断せずに電子書籍化することが可能」というメリットがあります。書籍や資料はPDF・JPEG・TIFF・eBOOK形式で納品されるため、かなり利便性が高い業者ですね。利用実績は2500企業以上で文部科学省などの公的機関や東京大学など国立大学の依頼も受けているようです。信頼性や実績を重視するならこちらの業者がおすすめです。

未来BOOK
こちらの特徴は表紙や付録・小冊子は無料対応してくれる点や再現度が高いこと、比較的コストパフォーマンスが高い点にあります。また、本のサイズや冊数で見積もるので、分かりやすく安心の見積もりである点もおすすめできます。こちらは本の電子書籍化とのことなので、それを求めている企業様には最適です。

今後の展望は明るい

いままでは、著作権法による違反が先述の裁判例にもある通り厳格に示されてきました。しかし、近年はその縛りが緩くなってきています。その根拠として、2019年1月1日に改正著作権法が施工されたことが大きいです。そのいくつかの法律の改正点の中でも、「デジタル化・ネットワーク化の進展に対した柔軟な権利制限規定の整備」は今までの自炊に関する著作権法を緩和してくれるものとなりました。概要は大きく分けると二つあります。

◆AIによる情報解析や技術開発など、視聴者等の知的・精神的欲求を満たす効用を得ることに向けられた行為でなく、著作物を享受する目的で利用しない場合(著作物の非享受利用)
◆新たな知見や情報を創出することで著作物の利用促進に資する行為で、権利者に与える不利益が軽微である一定の利用を行う場合(著作物の軽微利用)

これらをまとめると、「技術発展や情報改革のためなら、ある程度は目をつむるよ」と考えることができます。この法律はすでに施行されているので、今後自炊する方にとっては安心材料ですね。

まとめ

今回は、著作のデジタル化である「自炊」について解説しました。企業が自炊する場合は、個人利用に比べて気を付けなければいけない点が多いです。基本的に企業の自炊が可能な方法やパターンは以下の2パターンのみです。

◆作者に許可を得られた著作物は自炊OK(許可サインをもらうのがおすすめ)
◆制作物が社内で作られた資料なら自炊OK

これ以外に該当する自炊は法律に触れる可能性があるので注意してください。しかし、今後の展開や現在の改正著作権法から考えると必要以上に重く受け止めることはないでしょう。この記事が参考になれば幸いです。

(ライター:菅野浩太)